課題本から受けたインスピレーションを基に800文字のエッセイを執筆して、月一でセミナーと課題作品の合評会をします。
9月の課題図書
中野信子 著 『新版 科学がつきとめた「運のいい人」 』
神様が伝えたかったのは…
それは、9月の最初の月曜日の出来事だった。
私は、いつも通りに早めに家を出て、仕事の訪問先へ向かっていた。
地下鉄からJRへ乗り換えのとき、
「アッ⁉ やかんの火を消し忘れたかも」
家を出る前に、ルイボスティーを沸かしていて、弱火にして蒸らしていたことまでは覚えている。
火を消したかどうか…?
だんだん不安になってきた。
「今日は、午前の1件だけだから2時間後には帰宅できる。やかんが空炊きになる前に帰れる」
「いや、ダメダメ。今から会社に電話して事情を話して帰るべき」
「そんなことしたら、今まで積み上げてきた信用はどうするの?」
ハッと気付いた。
昨夜、次男が高校を卒業する来年3月まで、仕事をやめることを決めたのだった。
もう、会社の信用なんて気にする必要はない。
「引き返そう」
電車を降りて、反対のホームへ移動した。
今度は、家が火事になってないか不安が込み上げてくる。
「カンカンカーンって、消防車が来ていたら…」
「家族が家に住めなくなったらどうしよう…」
「神様、ごめんなさい。息子たちが風邪を引いたときも、仕事の優先にしてました。これからは、家族を大切にします」
今までの反省が、走馬灯のように思い出される。
やっとの思いで、自宅最寄り駅の改札を出た途端、
「アッ⁉ 広大が居たわ」
大学生の長男が自宅に居ることを思い出した。
すぐに電話したら、やかんの火は消えていた。
急いで訪問先へ折り返し、10分の遅刻で済んだ。
事前に会社が訪問先へ連絡してくれたおかげもあり、訪問先の人たちは怒ることなく、親切に接してくれた。
会社からのペナルティや注意もなかった。
結局のところ、会社の信用を落とすという心配は、私の思い込みに過ぎなかった。
正直言って、外出前に入念に確認する私がこんなミスをするなんて信じられない。
神様から、「本当に仕事をやめることができるのか?」って試された気分である。
そして、神様はこう伝えたかったのだろう。
「大切なことの優先順位を間違えるな!」
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