ふみサロ 8月課題『絶滅危惧動作図鑑』からのエッセイ ~「井戸水をくむ」からのインスピレーション~

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課題本から受けたインスピレーションを基に800文字のエッセイを執筆して、月一でセミナーと課題作品の合評会をします。

8月の課題図書
『絶滅危惧動作図鑑』藪本晶子著

当たり前の世界が、壊れる瞬間

私の母は、「昔は、井戸から水を汲んでお風呂沸かしてた。沸かせてなかったら、長兄からこっぴどく怒られた」と言うのが口癖だった。
まわりくどい言い方で、あんたらは恵まれていることを言いたかったのである。
生まれてから当たり前のように、水道とガス、電気はある。
恵まれているという実感が全くなかった。

ガス、水道、電気が止まったことがあった。
阪神淡路大震災である。
1997年1月17日 5:46 
床が、ドスンと、下がった瞬間、
電気がパチンと消え、真っ暗になった。
私の成人式の2日後だった。

当時、神戸の大学へ通っていた。
幸い、電車に乗ってる時間でなく、巻き込まれることはなかった。
地震翌日から、長い春休みに変わった。
電話で、友人と話ができたときは、お互いに無事でよかったねと喜びあった。

社会人になってからは、相手が阪神地区出身とわかると、震災の話をするのはお決まりになっていた。
だけど、それも28年経てば、風化しつつある。
今の被災地には、震災の面影がない。

最近、神戸在住の人と知り合った。
当時、彼女は高校生で、高速道路が倒れた地域に住んでいた。
その当時の記憶がバッサリ抜けている。
給水車へ水を汲みに行っているときに撮られた新聞記事だけが残っている。

彼女のまだ若い脳は、当たり前が壊れた世界を危機感を抱いて受け入れることを拒否した。
学校の体育館が、避難所と遺体安置所を兼ねていて、余震に怯えながら、遺体と共に過ごしたことを後から聞かされても、思い出せないのである。

当たり前と思っていた世界は、実は、壊れやすく、はかない。
これを知っていると、今を大切に生きていける。

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